◆布と糸を知る4(織糸)

◆布と糸を知る4(織糸)
 
前回の記事、布と糸を知る3では、布の重さを比べました。布の重さに影響するのは、布を構成する糸と、経糸に含まれる糊です。他にもメーカーによって布の質感や強度を上げるためにも何か秘密がありそうですが、秘密はそっとしておいて、織り糸に迫ってみます。
 織り糸のどんなところが布の重量に影響しているのでしょうか?また、重量以外にも何かを知る手掛かりはあるでしょうか?

(布を構成する糸、一体どんな感じでしょうか?)

 布と糸を知る2でご紹介した本「しくみ図解シリーズ 繊維の種類と加工が一番わかる」によると、一般的な布では織物はたて糸に糊付けをしてから織りに入るそうです。理由の一つ目に、製織中に強い張力がかかること、二つ目に織り機の部品(筬、綜絖)との摩擦に耐え、糸切れを防ぎ、毛羽立ちを防ぐこと、三つ目に製織効率を上げること、があるそうです。そんなに強く張っていたら、布がたてに伸びないわけですね。

※ 筬(おさ):織機の付属具。竹または金属の薄片を櫛くしの歯のように並べ、枠をつけたもの。縦糸を整え、横糸を打ち込むのに使う。
※ 綜絖(そうこう):織機で、横糸を通すために、縦糸を上下に分ける器具。

◆織物のたて糸を眺めてみる

(それぞれ、どの布の糸かわかりますか?)

 こぎん刺しを始める時に、布に行うことといえば何でしょう?私は何はともあれ、ほつれ止めです。なぜかと言うと、布がただの糸になってしまうからです。糸がほつれる感覚は気持ち良くもあるのですが(笑)、どんどん布が小さくなると焦りますよね。
 もしも今日こぎん刺しをして、布端がほつれたら、その布の織り糸を捨てずに眺めてみませんか?上の写真は、各布のたて糸を並べたものです。ほつれ止め液を塗った部分なので少しくるんとしているものもありますが、どの布の糸かわかりますか?

(チク タク チク タク)

 下が答えです。ただの糸になっても、織物だった頃の形跡が糸のボコボコに表れていて面白いですね。もしかしたらこのボコボコにも布の特徴を知るヒントが隠れているかもしれませんね!ワクワクしますが、今回は一旦置いておきます。

 

◆たて糸をほぐしてみる
 前回のブログ最軽量だったオリムパスと最重量だったケンセンを見比べてみてください。向きもあるかもしれませんが、明らかに太さが違って面白いですよね。このままだと糸の太さしかわからないので、少し先端部分をほぐして観察してみました。

 

 上の写真は、左6本が麻、ただし左から2番目はレーヨン混紡、右6本が綿です。これを見るだけでも、麻布と綿布の特徴の違いに何か気がつきそうですね!もっと詳しく見てみましょう。


(麻布の先端をほぐした様子)

 どんなことに気がつきましたか?麻布の織り糸は大体2本から3本に分かれているようです。ファンシーヘッシャンはレーヨン混紡なので、全く違った繊維に見えますね!

(綿布の先端をほぐした様子)

 こちらはいかがですか?パッとみてすぐに織り糸の構成糸数が麻布に比べて多いことに気がつきますよね!大体4本から6本に分かれているようです。
 ちなみに、
前回のブログで最重量だったケンセンのコングレスは、3本の細い糸を捩ってできた1本の糸を、3本にまとめて捩り、1本の織り糸になっているようでした。そりゃあ、重いわけだ!そりゃあ、太いわけだ!そりゃあ、丈夫なわけだ!と、これ以上にない納得感が得られました。糸についても知識を入れた方が楽しくなりそうですね。

◆麻布と綿布の強度の違い
 
麻布も綿布も技術の結晶ですので、ちょっとやそっとのことで壊れることはありませんが、繊維そのものの特徴以外の点から、例えば織り糸を構成している糸の本数や糸の特徴からも、布目を糸が通過するときの糸の滑り(摩擦の関係)や、糸こきのしやすさ(織り糸の揺らぎ等)、糸の摩耗具合に影響がありそうな匂いがしますね。
 本日は、布が織物であることを再認識するとともに、その織物が糸の集合体であることを確認し、布になる前の糸に焦点を当てて研究してみました。この見た目の違いが、実際に刺した時にどのような経験となるのか、少しずつ刺し心地の違いなどに近付いていきたいと思います。気になることが出てきたら、脇道に入っていくと思いますので、ゆっくりの研究になると思いますが、のんびりとお付き合いいただけますと嬉しいです。

(いよいよ、各布に刺してみました)

◆最近の制作に関しての小話
 Instagramでご紹介している制作に関して、日々たくさんの気付きがあり、脳をフル回転させとても楽しく刺しています。こぎん刺しにはモドコ(基礎模様)図案が必要だとは思いますが、大きな布にこぎん刺しをしていくのに、必ず図案が必要かといえば、必要はないと考えています。「正確で整ったこぎん答えから進んでいくこぎん刺し)」には図案が必要だと思いますが、こぎん刺しは、進んで行く方向(目数など)の制限があるため、その制限内の選択肢から目数を選んでいくと、次々と展開していきます。←この、何を刺しているのかわからない(答えに向かっていくこぎん刺し)を自分自身が経験し、もっとシンプルにこぎん刺しを伝えていきたいな、と考えながらこぎん刺しをしています。
 私もキット制作をしてみなさんと図案共有をしながらこぎん刺しを楽しんでいますので、図案をネガティブに捉えている訳ではありません。しかしながら、「こぎん刺しは難しい」の壁を少しでも取り払いたいと思っています。子供がブロックで何かを作るように、こぎん刺しを楽しんでいきませんか?そんな気持ちです。
 少しでも図案や計算から離れて、こぎん刺しってこんなにシンプルで楽しいんだ!ということを、自分自身がもっと深く理解していけたらと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

 

▶️材料研究ブログ

 

◆調査内容に関して
 当ブログは個人でこぎん刺しをお楽しみいただく方に向け情報で、さとの坊が自宅保管した材料で調べた内容です。保管環境によりお手持ちの布と相違が出る場合があると思いますがご了承ください。また、写真の無断使用はお断りいたします。 楽しいこぎん時間になりますように。

 

◆参考文献
「しくみ図解シリーズ 繊維の種類と加工が一番わかる」2012年6月20日紙版発売、日本繊維技術士センター 編、ISBN 978-4-7741-5137-3、Gihyo Direct

◆引用
コトバンク, デジタル大辞泉「筬」, https://kotobank.jp/word筬-40175, 2023年6月12日)

コトバンク, デジタル大辞泉「綜絖」, https://kotobank.jp/word/綜絖-89282,2023年6月12日)

Satonobou